 石川県の無形文化財に指定されている能登上布。「蝉の羽のような」と形容されるこの美しい手織物の起源は、約千七百年も前の崇神天皇の時代にまで遡る。しかし、最盛期の昭和初期に麻織物の生産量で全国一を誇った能登上布も、近代化の波を受けて存続が危ぶまれるほどになった。
そんな中、地域の風土が育てた大切な文化として、また何よりもその技の素晴らしさを多くの人に実感してほしいとスポットを当てているのが、いなとく呉服店である。
 五代目店主の稲村克己さん夫婦は、平成十八年の春、集落にある本店とは別に新たな店を街道沿いにオープンした。和の楽しさを感じてもらえることを心がけて、若い感性で和の暮らしを提案、一見敷居が高そうな「呉服店」のイメージを払拭し、気軽にのぞきやすいお店をつくった。
その店内に、能登上布のコーナーも設けている。地元でたった一軒となった工房と協力し合い、オリジナル商品の開発を進めてきた。そもそも、工房の作品の多くは京都を経由して全国に届けられていたが、地元では逆に手に入りずらい状況があった。そこで、比較的扱いやすい小物などにも展開し、名刺入れなどは予想以上の人気を得ることができた。
 地域一帯は、かつては能登上布の産地だった。だから今でも各家庭に上布が眠っている。これを集めて「懐かしの能登上布展」を催した際は、多くの作品が集まるとともに、地元の皆さんにとても懐かしんでいただけた。
今後は、県内の色々な伝統産業とのコラボレーションや、着物で楽しむ会の企画など、和の暮らしを楽しんでいただける機会をさまざまに提案していきたいと、意欲的に取り組んでいる。
ここから何か楽しいことが生まれそうな、気になる呉服店だ。
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