
平地が少ない山の暮らしでは、米が多く採れないため、主食代わりにトチの実を食べていた。とち餅はその名残ともいうべきもの。トチの実は脂肪分が多くなく、成分的には米や麦に近い。保湿力もあるようで、とち餅は普通のお餅に比べて固くなりにくい。ただし、トチの実はえぐみが非常に強く、そのままではとても食べられるものではない。
 とち餅づくりは手間がかかる。山から採集してきたトチの実は乾燥させ、保存しておく。いよいよ作るとなったら、お湯に一晩つけて、皮を柔らかくする。金鎚で叩いて皮を剥き、10日ほど流水で晒す。木の灰と一緒に煮上げ、そのまま二晩ほど冷めないように保つ、といった具合。
実際には製法は様々で、炊いてから灰を入れる方法もあるし、灰と水で煮出してから実を入れる方法もある。昔、各家庭で作られていた頃も、家々で味が全然違ったという。囲炉裏端で燃やす木の違いが、Phの微妙な違いとなり、味に個性を出していた。

白山麓一帯には今もトチの木が多い。7裂の葉っぱは、天狗さんの持っている団扇のような形で、葉も木もでかい。6月頃には白い花をいっぱい咲かせる。山に咲く白い花が、下がる形だったら栗の木。上がって咲いていたらトチの木。
伝説では白山の開祖、泰澄大師がトチの実を食す製法を教えたという。古くは貝塚でかまどの近くからトチの実の皮が出土したため、すでに灰で加工してえぐみを取っていたと考えられている。トチの実そのものは、農業開始以前から食されていたわけだ。
植えてから実がなるまで30年を要するトチの実を使い、2週間以上の手間をかけて作るとち餅。これこそスローフードの代表選手だ。 |
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